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話題の本

『第二言語コミュニケーションと異文化適応』八島智子著

 大修館書店刊『英語教育』(2004年10月号掲載)

本の詳細

 第二言語・外国語学習が他教科における学習と違う点は何か」と問われたら、「言語学習文化への態度の形成が大きく影響することである」と答える方も多いであろう。本書は、著者が10年にわたり体系的かつ綿密に研究を重ねてきた高校生の異文化体験についての研究の集大成である。文部科学省が策定した「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」において高校生や大学生の留学促進が目標として掲げられ、中学校・高等学校の異文化接触の機会が増え、そのようなプログラムの評価が必要となっている今日、異文化学習としての英語教育を考える上で非常に参考になる良書である。
 本書には、英語教育および異文化コミュニケーションの専門家であり、幅広い理論・研究手法にも精通している著者の知見が凝縮されている。具体的には、高校生が様々な困難やストレスを経験しながらもアメリカ人とのコミュニケーションを図る努力を続けることで適応していくプロセスを、社会心理学の視点から分析している。加えて、留学経験を経て「どの程度英語コミュニケーション能力の伸びがみられるか」という課題にも取り組んでいる。設定された研究目的、用いられた様々な研究手法、解釈された研究結果、提示された今後の研究課題からは、著者の自身に対して妥協を許さない研究者としての姿勢が見られる。
 研究の背景と問題設定、研究史および理論的枠組み、研究の目的が述べられた序章に続いて、第1章では社会文化適応上の問題の所在を明らかにするために行われた予備調査の結果が報告されている。ここから、一方ではソーシャル・スキルやソーシャル・サポートと適応に関する研究(第2章、第3章)へと発展し、もう一方では留学前に測定した英語力や外向性などの個人変数が社会文化的適応をどの程度予測できるかという方向(第4章)へ発展している。第5章では英語力、外向性、ソーシャル・スキル、ソーシャル・サポートの質・量、社会文化的適応感の関係を明らかにするため総合的なモデルを構築検討している。さらに、数量的データ解析を補足するため、第6章では自由記述を分析し、英語の使用、対人関係の形成と適応感に関する本人の意識と情動的な反応を描き出し、第7章では研究結果に基づいた日本人高校生の留学生プログラム参加者を対象としたソーシャル・スキル学習と英語指導を融合した学習試案を提示している。最終章においては、研究から得られた知見を整理し、異文化対応力の涵養を目的とする英語教育に還元するための示唆をまとめている。
 本書は、英語教育において異文化コミュニケーションや情意要因を対象とする研究者や実務者、さらにはそれらの領域を研究する大学院生に、多くの有益な示唆を与えてくれるに違いない。

(評者/兵庫教育大学助教授・中田賀之)

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