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話題の本

『一般理論―第二版〜もしケインズが今日生きていたら』G.C.ハーコート/P.A.リーアック編 小山庄三訳

 『日本経済新聞』(2005年8月14日掲載)

本の詳細

 ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』出版から約70年。彼がもし同書の第二版を上梓したとしたら、その中で社会や経済に対し、どのような考え方を示し、どういった理論を構築しただろうか――。本書はそうしたユニークな仮定のもと、欧米の著名な経済学者らによって著された900頁を超えるエッセイ集である。
 ケインズは、国家とは組織としての行動が短期的な利潤最大化動機によって決定されてしまわないような、「制度のネットワーク」にほかならないと想定している。ところが現実はどうか。スキデルスキーによれば、現代の国家は「もはや私的な財産や民間企業から厳密に切り離されておらず、二つの領域が合体してハイブリッド(混成物)の形を成しつつある」という。そうした延長線上で考えると、日本でも関心の高い、政府の「民営化」問題をケインズは批判的にとらえた可能性が高いのではないか。それなら彼は「大きな政府」論者なのか。スキデルスキーによると決してそうではないという。なぜならケインズは利子率の低下を妨げかねないという理由で、福祉国家の過度の拡大にも批判的だったとみられるからである。過度の民営化、過度の福祉国家のいずれも拒否した可能性が高いとの指摘は、政策決定をくだす上で数多くの示唆を私たちに与えてくれる。
 大学時代、私たちは失業の原因は高い貨幣賃金要求にあると教わった。これに対し、トービンはもしケインズが存命で、企業が価格を自由に決定できれば、貨幣賃金低下は価格低下をよぶため、結局実質賃金は変わらず、「貨幣賃金が下方に伸縮的であっても、そのことが実質賃金を引き下げ、雇用を増加させるわけではない」と主張。「教科書的理解」を真っ向から否定したはずだと述べている。
 本書を通じて伝わってくるのは、ケインズ経済学は読み方次第で今なお大きな影響力を持っているという動かし難い事実である。専門書であり、相当の読みにくさがあるのは確かだが、そうした点を差し引いても経済学の奥深さを私たちに教えてくれる1冊だ。

(評者/大瀧雅之・東京大学教授)

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